「美容外科的下顎輪郭形成における下歯槽神経の扱い方について」
第26回日本美容外科学会総会 / 2003年10月 / 東京院 浪川浩明
目的
下顎の輪郭形成術において歯槽神経は手術手技上、しばしば邪魔に感じられる。とは言うものの、神経損傷には細心の注意を払っているが、術後の神経麻痺を巡り、患者とトラブルになった事はほとんど経験がない。
これは、(A)術前のムンテラ1)の徹底1)程度の差はあれ、一時的な下口唇周囲の知覚異常が必ず生じ、これは将来きちっと回復する。しかし回復には意外と時間がかかると云う説明)、(B)我々が経験する麻痺のほとんどがオトガイ孔外のオトガイ神経のレベルで生じ、鉤の牽引、圧迫によるneurapraxiaないしは、axonotmesisである、の2点に集約されると思われる。
しかしながら、過去3年間の治療において、1)neurotmesis(神経幹の物理的断裂)9例、2)下顎骨外板削除による神経本幹露出24例、3)神経周囲瘢痕による絞扼3例、などを経験している。そこで個々の麻痺における初期評価と回復の経過を正確に把握しようと、静的触覚検査(S-W知覚テスト)・温冷覚検査を実施した。
対象
1) 期間:2000.6.1~2003.5.31の過去3年間
2) 確実に追跡調査できた 2)318例 < 2)完全回復まで確認できたか、術後1年間以降も通院評価できた症例>
方法
1) 損傷部位、及び損傷程度の検索
2) 知覚検査の実施と評価(Highetの分類)
結果
対象症例の70.8%にあたる222例は術直後の損傷レベルがHighet分類のStage2まであったが、それらに関しては特別な処置を施さなくても6ヶ月までにほぼ99%が完全回復した。またneurotmesisを生じた全例とも、術中に損傷確認でき、適切な処置(神経縫合等)が行なわれた。これらは直後Stage0(完全な感覚の脱失)であったが、3ヶ月後には、全症例がStage2までの回復(その後の回復経過は個々の症例により異なる)が確認できた。
考察
結果を踏まえ、我々は神経周囲の処置を比較的果敢に行なっている。ただし、初期に完全麻痺の症例も、後日axonotmesisであったと推測される場合が多く、初めから計画的に神経離断し、後から改めて縫合するよりは可及的に温存するほうが望ましく思われた。